「Oggi」 なるほど北川塾 〜基礎から学ぶ〜

04年7月号
地下鉄が「株式会社」に!? 郵便局も道路も民営化、これって、どうして?どんなイイコがあるの?

4月1日から東京の地下鉄のマークが変わりましたね。営団地下鉄が「東京地下鉄株式会社(愛称・東京メトロ)」となり、「民営化」されたのです。道路公団、郵政などに次いで、いろいろなところで民営化の話が進んでいるようですので、今月はこの話題を。

お役所体質改善、そして、借金返済

そもそも民営化の論議が起きてきたのは、700兆円という借金を抱えるこの国の行政の行き詰まりからです。官営の事業を“お役所仕事”という非効率なやり方をして、借金も膨大に膨らんだ。現在のJR(旧国鉄)では民営化される前の'87年の累積赤字は約37兆円。現在、民営化論議の進んでいる道路公団は約40兆円もの赤字を抱えています。

そこで、これらの事業を国から民間におろし、効率化させて借金も減らしていこうということになったわけです。

民間企業は最小のコストで最大の利益を上げることが絶対条件です。失業・倒産の心配がない“お役所”と違って、必死になりますよね。消費者に利用してもらうために、サービスをよくしよう、より安くより便利によりおいしく…、といろいろ知恵を絞らなくちゃならない。その結果利用者にとってのメリットがたくさん出てきます。

今回の地下鉄民営化では、地下道などをつくる莫大な費用のかかる部分は、もう公的資金でやってしまっているため、民営化後は利用者サービスに重点を置いた改革が可能です。しかも“官”がやるとたくさんの法律に縛られて、「してはいけない」ことだらけになるのですが、その縛りが解ければ、やれることの可能性が広がります。

たとえば、「デパ地下」ならぬ「エキチカ」というものもできました。昨年11月に、千代田線北千住駅に、ネイルサロンや輸入雑貨店などがオープンしたり、来年には表参道駅の地下1〜2階に飲食コーナーを中心とする専門店街がオープンするそうです。これは働く女性たちにもいいニュースですよね。

民営化で、広がる利用者のメリット

この民営化の流れに先鞭をつけたのは、イギリスのサッチャーでした。ゆりかごから墓場まで、という高福祉社会が、国の財政を遍迫させて、国自体がたちゆかなくなってきたため、空港の民営化をはじめ、思いきった改革を断行したのです。

この背景には、「情報公開時代」になってきたことがあります。これまでの情報非公開の時代には、公金を遣う「公」の仕事については、官がやるべきだとされてきました。しかし、その遣いみちが公開されるのであれば、官・民どちらがやっても構わない、より効率的に、より利用者に有利なかたちでできるほうを選べばいい、という考え方が出てきたわけです。

私の三重県知事時代、職員たちに「第二県庁をつくるぞ!」と脅したことがあるんですよ(笑)。第二県庁では土日も祝日も夜間も窓口を開ける。そうして徹底して住民サービスに努める第二県庁があれば、住民はそちらを選ぶでしょう。競争に負けた県庁職員たちは失業してしまいます。そういう「競争の原理」を持ち込んで、サービスの質を上げて、住民サイドのメリットも上げていこうと。まあそれは冗談ですが(笑)、考え方としては同じことです。

実際、民営化後のJRはずいぶんと変わったでしょう。新宿や渋谷の駅に、若者に人気のユニクロや無印良品のショップとか、女性客の多い目白駅にエステサロンとかね。ほかの駅でも、構内にさまざまな店や宅配便の受付ができたり、Suicaなんて便利なカードも出てきた。消費者アンケートをとったりもしたようですよ。女性の声を積極的に聞いて、トイレが汚いとか夜の駅が暗くて怖いとかいう点を改善したそうです。

民営化によって、こういったサービスが充実するなら、利用者にとってはいいことずくめです。こういうことはどんどんやるべき。今の民営化のスピードは遅すぎるくらいです。

「公共」について考えてみよう

さて、民営化では、利用者メリットの一方で、慎重に議論されなくてはならないこともあります。「公共」のものについて、すべてを民に“丸投げ”していいかというと、私はそうとも限らないと考えているのです。

たとえば、水道、道路、鉄道など生活の根幹に関わる部分ですね。これらの部分は、ただ効率化のためだけに、やたらと民営化すればいいというものではないと思います。たとえば、国鉄の民営化によって、「非効率」な地方の小さな駅や路線が廃止、廃線になったりしましたね。その駅や路線が唯一の交通手段だった人たちにとってはたいへん不便になった。不採算であっても住民にとって不可欠のものであれば、これは税金を使ってでも“官”がやるべき役目もあるのではないでしょうか。「公共の財」については、最大の効率のよさをとりながらも、官に残していくものはあると思うのです。

その最たるものが、道路です。

現在、道路公団の民営化に向けた作業が進行中です。今の非効率なやり方では、借金も減らない、莫大な費用のかかる高速道路の建設も見直そうという趣旨です。それはいいとしても、その側面だけから見るのでは、やはり足りない。

もし民間がやって、「儲からない」から、この橋はつくるのをやめます、この道路を通る料金も値上げしますということだらけになってしまったらどうでしょうか。生活者は不便を強いられますね。

今の改革案では、45年後には借金をすべて返しきって、そのときには高速道路もすべて無料に、という試算も発表されています。しかしこれは、先のこと過ぎてリアリティがないと思いませんか。そういう現実味のない遠い話よりも、もっと生活に直結した具体的な情報が、今後開示され、国民皆で議論されるべきだと思います。皆さんも、これら公共の財について、自分の生活がどうなっていくのかという、自分の問題として興味をもっていただければと思います。

(構成/小野純子)

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