「Oggi」 なるほど北川塾 〜基礎から学ぶ〜

04年4月号
220万円の買物なら真剣に吟味する!? その検討資料兼契約書が「マニフェスト」!

みなさん、はじめまして。今月から「なるほど政経塾」を担当させていただきます北川正恭です。といってもご存じない方も多いでしょうから、昨年の流行語大賞にも選ばれた「マニフェスト」を最初に提唱した者と、まずは申し上げておきましょう。そこで、第1回の講義は、自己紹介を兼ねて「マニフェスト」とはなんぞや、そして民主主義とは、という大きな枠についてお話ししましょう。

会社じゃアタリマエのことが政治の世界では完全無視!?

昨年は、いたるところで聞かれた「マニフェスト」という言葉。でもそれをちゃんと説明せよ、と言われたら意外とできないかもしれませんね。これは、簡単に言うと、「自分が政権を執ったとき、実現可能な約束」ということです。

これまでの選挙公約といえば、選ぶほうも選ばれるほうもお互い「破ってもいい」と思ってきました。たとえば、民主主義の権化たるべき総理が「公約を破っても大したことではない」と発言したときにも、国民はあまり怒りませんでしたね。立候補者も政党も、有権者にはどうせ理解してもらえないから、ということで、これまでの公約は、抽象的な甘い願望を羅列しただけのものでした。だからお互いみんな「そんなものだ」という予定調和の中で過ごしてきたんですね。そういう思い込みは棄てて、「破る」約束から「守ることを前提とした」約束へ。それがマニフェストです。

そして、「守る」ためには、それがただの“口約束”ではなくて、その後、選ぶほうが検証できるようにその内容が明記されていなくてはなりません。具体的に「期限(いつまでに)」「数値(どれだけのことを)」「財源(その予算はいくらで、どこからか)」を、文章で明らかにすること。そしてそこに「工程表」(つまり、来年にはここまで、再来年にはここまで、そして3年後には100%達成というような)をつけましょう、ということなのです。

「工程表」といえば、みなさんがお勤めのような一般の製造企業などでは、ごく当然に行われているようなことですね。それが、政治の世界ではまったくなされていなかった。それを我々もやっていこうじゃないかということです。

会社の工程表が実現可能なことでつくられるように、マニフェストも実現を前提にすると、有権者が喜びそうな甘い約束を全部盛り込むことは無理です。やるべきことに優先順位をつけて絞り込まなくちゃいけない。しかも、実現のためには苦い薬も入ってくる。しかし、’03年4月の統一地方選挙では、その苦い薬を入れた「マニフェスト」で誠実な説明をした立候補者が圧勝したんです。そこから、マニフェストの旋風が始まりました。

220万円の買物!?それは任せっきりにはできません!

ところが、民主主義とはものすごく脆弱なもので、ちょっと間違うと700兆円の借金(今の日本の実情です)ができたりする。だから読者のみなさんが賢くなって、真剣に選んでいかないとだめなんです。

たとえば、これを聞くとどうでしょうか? 今、政府の予算は年間約80兆円です。内閣が仮に3年続くとしたら、3年間で約240兆円。これを国民一人当たりにすると、220万円です。大きいでしょう。4人家族の家庭だとしたら、880万円の買物をしたことになりますね。この金額は車でいえば、シーマ、セルシオクラスのもの。そんなものを買うとなったら、真剣に検討するでしょう。燃費だスタイルだインテリアだ、って。その上で契約を結びますね。その契約書の中身が「マニフェスト」なんです。これまでは、そんな大きな買物の中身を真剣に考えもせず、“お上にお任せ”してきたんです。「白紙一任」ってことは、その予算をどう使われようと文句は言えないということです。

でもそんな高い買物となれば、文句のひとつも言いたくなりますね。ならば、選ぶ方にも責任があることを自覚しましょう。いいかげんな選び方をしたら、自分の生活にも降りかかってくることを。車を買うときと同じように、契約書(マニフェスト)の中身を吟味して真剣に選び、その後の状態をチェックする。こういう双方向の責任があるのがマニフェストです。

法律だって変えられる!? 生活実感から始めてみよう

しかし、マニフェストも、日本では始まったばかり。みんな不慣れで、まだまだ不十分です。イギリスでは100余年の歴史がありますから、ある政党が政権を執ると株価が変わるというので、株の関係者がまず最初にマニフェストを買ったりします。自分の買った株に影響するとなれば、リアリティがありますよね。本来、生活実感としてリアルなはずなんです。税金がどうなるかということだって、自分の生活に直結するでしょう。だからその内容も絵やグラフなどでビジュアル的に誰にでもわかりやすいよう、よくできています。

でも日本ではまだまだ。こんなITの時代に、公職選挙法の壁などで候補者はホームページ上での選挙活動ができません。そういうことひとつひとつを変えていって、これからだんだんよくしていこうと。そのためには必要な法律も変えていこうということです。

法律も自分の住む町や国も、自分の力で変えていけるんです。要は参加意識と行動です。自分の220万円の買物の中身は自分で真剣に検討して真剣に選ぶ!そして、文句があれば言うし、変えるべきは変えていきましょう、主体的に。それができるからこそ「民」が「主」役の民主主義です。そしてその芽は確かに育ちつつあります。

読者の皆さんのような方たちからそういう思いと行動が育っていくことを願って、この講義を行っていきたいと思っています。今月、民主主義の大枠をご理解いただいたら、来月からは、税金や社会保障の問題などより身近な話題についてお話ししていくつもりです。どうぞ末永くおつき合いください。

(構成/小野純子)

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