月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

06年03月号 地方分権シンカ論33(最終回)
自己決定・自己責任型の自治体職員に

マニフェストは「有権者との明確な約束(契約)」である。マニフェストを掲げて当選した首長は実行に責任を負うが、一方で「選ぶ」側の有権者の責任も重くなる。有権者・市民が積極的にマニフェストに関わっていくことで地方政治・行政はより活性化する。

「指示・通達待ち」からの脱却

2000年4月の分権一括法施行で国と地方は「上下・主従」から「対等・協力」の関係になった。私は同法の施行をはさんで三重県知事を務めていたが、施行前は圧倒的に国に説明責任を果たしていた。

国は自分たちが考えた仕事を地方に委任するわけであり、仕事の内容も手取り足取り教えようとする。非権力的関与であろうが、権力的関与であろうが、国から言われることは地方にとっては絶対的な命令に近いものだった。それが戦後60年間続いた結果、指示・通達待ちの自治体職員ができあがった。

国と地方が「対等・協力」の関係になるというならば、自治体職員は問題発見能力、解決能力を身につけ、自己決定・自己責任が果たせるようにならなければならない。

そのためにはどうするか。まず、自治体職員のミッション(使命)は何かを問い直すべきだろう。そして人材育成面でも、立ち位置を変えた研修体制が必要になる。

国ではなく、主権者に説明責任を果たすためには、行政が持つ情報をリアルタイムで提供しなければならない。主権者と情報を共有するなかで、自治体は、ガバメントという強権的なイメージから、ガバナンスという合意形成を前提とした統治形態に変えていくべきだ。

「地方政府」に向け、気概を

地方分権時代の首長は、中央政府の営業所長から独立した経営者になった。首長自身が意識を大きく変えることこそが自治体職員に勇気と希望、やる気を与える。経営者は経営理念や経営方針、達成方法、達成期限を明確に示し、組織が一丸となって達成を目指して行動するというマネジメントが必要になる。

補助金や地方交付税が削減されることをピンチではなく、自立に向けたチャンスととらえるべきだ。事実前提の前例主義ではなく、目指すべき地域の理念を高らかに掲げる。それが価値前提であり、地域政策を大きく転換する、いわゆる大政治を行う気づきの道具として私はマニフェストを提唱した。

地方自治法2条で、市町村は総合計画の策定が義務づけられている。都道府県の場合は任意の策定であり、このことは国から市町村はいまだ信用されていない証ともいえる。「地方公共団体」という言葉も、国の下請け的なイメージがある。「地方政府」あるいは「地域政府」と呼ばれるように地方は真に自立していくべきだろう。

そのためには、国よりも市町村のほうが立派だという実績を突きつけていくプライドと努力が必要になる。地方分権を進めると、地域によって能力や意欲に濃淡があるのでどうしても多少の混乱は生じる。それでも国に勝るすばらしい政策を立案していくことで批判を乗り越え、住民に信頼される地域をつくっていく。そういう気概にあふれる職員が増えていくことを期待している。

職員の内発的改革

知事時代に私は行政のビジネスモデルをたくさんつくった。改革は理論もさることながら、小さなサクセスストーリーが大事。「やってみたら変わった」という積み重ねが大きな成果を生み出す。

職員には「こんなものだ」という思い込みがあり、前例踏襲に陥りがちだ。ところが時代の変化のスピードは早い。変化に気づかせるために、私はさまざまな手法を用いた。その一つがダイアローグ(対話)だった。そこではヒエラルキーも縦割りも関係ない。テーブルも円卓にし、自由に発言できるようにした。

なぜダイアローグを重視したか。どこに問題があるかを最も知っているのは現場の担当者だからだ。政と官が良好な関係になると、組織風土が変わる。プロジェクトチームなどが回転し始めると、次々に新しい意見やアイデアを話せる雰囲気になってきた。

そして私は、職員の内発的改革を重視した。県庁職員6000人が内発的に問題を発見し、解決する組織に育てようと努力した。すべての自治体が学習する組織(ラーニング・オーガナイゼーション)になることを願っている。

同時に、デジタルな改革も必要になる。改革の必要性が一致しながらうまくいかないのは、状況認識の不一致や立場による違いがあるためだ。理念を一致させ、実行するには、ITを活用して、徹底的に情報の共有化を図る。そこで意思の統一が図られ、ベクトルが一つになり大きなエネルギーとなる。

振り返ると私は、県庁の組織文化を変えることに全情熱を注いだと言っても過言ではない。時には不信感や揺らぎが生じたりした。それでも「やればできる」と信じ、成功体験を積み上げていく。それを一か所に集め、タイミング良くボンと爆発させる。たとえば全国で初めての事務事業評価システムの導入や産業廃棄物税の創設、原発の白紙撤回などは従来の事実前提の考え方ではあり得なかった。問題発見・問題解決のダイアローグによって、新価値を創造できた。

「公・共・私」の作り直し

ガバナンス型の地域経営を進めるにあたっては、職員に求められる能力も変わってくる。協働によって新しい政策をつくるとなればコーディネートやファシリテート能力、プレゼンテーション能力、コミュニケーション能力などが必要になる。

いまは住民の声もさまざま。道路を造ってほしい、という声もあれば、逆に道路よりも環境を残してほしいという意見もある。そのような多種・多様な声にどう応えていくか。多様な主体に責任を持ってもらわない限り、つまり合意的な行政でなければ前に進まない。

私は現代は、文明史的転換点にあると認識している。社会全体が作り直しの時期に入っているのに、行政だけが何も変わらないということはあり得ない。

「公」の仕事を担うのは何も公務員だけではない。「公・共・私」のあり方をもう一度作り直し、新しい価値を創造する必要がある。47都道府県・約1800の自治体が善政競争を行い、べンチマーキングしていく。全国各地でイノベーションが生まれ、自治体職員が切磋琢磨したならば、この国の「かたち」は必ず変わると信じている。

(構成/本誌・千葉茂明)

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