月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

06年02月号 地方分権シンカ論32
市民側からもマニフェストの提案を

マニフェストは「有権者との明確な約束(契約)」である。マニフェストを掲げて当選した首長は実行に責任を負うが、一方で「選ぶ」側の有権者の責任も重くなる。有権者・市民が積極的にマニフェストに関わっていくことで地方政治・行政はより活性化する。

市民マニフェストの提案

日本の民主主義の成り立ちを振り返ると、明治維新にしても戦後の改革にしても、いわば上からの改革だった。そのため住民には「お上意識」がまだ色濃く残っていると見ていいのではないか。白紙委任、お任せ民主主義のような風潮が残っているからこそ、住民と遊離したような政治・行政が行われてきた。

「お任せ民主主義」から脱却し、市民は行動を起こさなければいけない。投票行動によって政治に参画することはもちろんだが、市民の側からも積極的に政策を提案していく必要がある。

04年9月の奈良市長選で、奈良市のNPO団体が自らローカル・マニフェストを作成し、候補者に提案した。ほぼ1年かけてバージョンを上げ、最終的には26項目に及ぶ政策をまとめた。このときは市政全般について提案したが、特定の政策分野でも構わない。マニフェストを候補者に提案し、それに対する姿勢を投票行動に結びつけることが考えられる。奈良市での試みは継続的に行われており、その後もバージョンを上げている。もちろん幅広い市民の参画など課題はあるが、先駆的な挑戦として高く評価したい。

また、候補者と市民が一緒にマニフェストを作成することも考えられる。政策を論じ合いマニフェストを作成することは候補者・市民双方にとって有益な機会となるだろう。

国内だけでなく世界の民主主義の実例を学び、財政状況の悪い中で、「あれかこれかの選択」をする。その決定の場に市民が近づいていく努力をしていかなければ、本物の民主主義には近づけないのではないか。

ある時、イギリスの領事に「イギリスと日本の違いを一言で言うと何ですか」と尋ねたら、「日本で消費者運動が起こらないこと」と話していた。民主主義は、市民が声を上げるところから始まるのではないかと領事は盛んに言う。地方分権運動やローカル・マニフェスト運動などを通じて、立ち位置を変える努力を行っていく必要がある。地域の意思決定に市民が参画し、決まったことはみんなで守っていく。民主主義の精度をより高めていくための一つの「気づきの道具」とマニフェストをとらえ、候補者はもとより広く市民に関心を持ってもらいたい。

市民によるマニフェスト評価

マニフェストを掲げて当選した首長は定期的に進捗状況を評価している。そのこと自体は歓迎すべきことだが、評価の物差しは自分たち行政がつくったものであり、どこまでいっても手前ミソの域を超えることはない。最終的には4年後の選挙で有権者の評価を仰ぐことになるが、市民の側も定期的に第三者評価を行うことが求められる。

大阪府枚方市で市民による枚方版マニフェスト検証・評価大会が昨年10月に開かれたり、自治創造コンソーシアムによる神奈川県知事のマニフェスト評価、NPO法人政策21による岩手県知事のマニフェスト評価など第三者の外部による評価が出始めてきた。このことはマニフェスト・サイクルを回転させ、進化させていく上で非常に大きな意義がある。

自治体は第三者の厳しい評価を喜ぶ組織体に変わらなくてはいけない。中には第三者評価を嫌う首長もいるが、仮に評価結果が低くても「だからこそ頑張る」という姿勢がほしい。行政側がよかれと判断して行っている施策でも、市民の評価が低いことはざらにある。それを知ることは首長・自治体のリスクマネージメントにもなる。

選管のミッション

選挙管理委員会(選管)のあり方も考え直すべきだ。買収や暴力などの選挙干渉が減少したのは成果だが、今後も投票を呼びかける取り組みだけでいいのか。選管は、他部局にも積極的に働きかけ、民主主義をバージョンアップさせる取り組みを充実させる必要がある。

特に重要なのは教育委員会。まずは学校教育の場で、民主主義を支える諸制度を教えるべきだろう。模擬議会や模擬投票、ディベート、インターンシップなどに積極的に取り組む。自分たちのクラスのことは自分たちで決める。そのような体験を積んで成長すれば、地域の自己決定、自立を担う人材になる。

投票権は有権者の権利。都市化が進むと投票率が下がると言われるが、それは選管の言いわけでしかない。民主主義は与えられるものではなく、創っていかなければいけないもの。選管はまさにその最前線にいる。低投票率を社会の問題にするのではなく、自分たちの大きなミッション(使命)として断固高めていく決意が必要だ。

マニフェスト型討論会の開催を

マニフェストを争点にしたマニフェスト型討論会も各地で行われるようになってきた。私自身も何度も公開討論会のコーディネーターやパネリストを務めたが、主催者は運営方法に非常に気を使っている。開催時期一つをとっても設定が難しい。討論会を自由に開けるような選挙制度に変えていくべきだ。

市民が主役の政治にするには、候補者がマニフェストを掲げ、公開討論会の場で候補者同士が堂々と政策を論じ合い、有権者が判断していくことが非常に重要になる。

公開討論会を開くことでマニフェストの比較ができるし、候補者がどれだけ本気なのかというパッションやマネージメント力などが明らかになる。このことは、投票率の向上にも当然つながっていく。

先進的な取り組みをたたえる善政競争を行い、地域のことは絶対に自分たちでつくっていくという機運を高めていく。その総和によって公職選挙法改正など民主主義を支えるインフラ整備が進んでいく。

選挙でマニフェストを作成する首長候補者は格段に増えてきたが、現行の公選法では自由に配ることができない。有権者側から見ると、候補者の政策に関心があってもマニフェストを入手しづらいのが現状だ。また、マスコミ報道もいわゆる政局報道から「政策中心の報道」に変わって然るべきだろう。地方で言えば、どの政党・会派、団体が候補者を支持したといったことよりも、候補者のマニフェストを比較・分析し、分かりやすく報道する。そのことによって有権者は政策中心に候補者を「選ぶ」ことが可能になる。

(構成/本誌・千葉茂明)

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