月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

05年10月号 地方分権シンカ論28
選挙・政治に科学的なシステムを

9月11日に投開票された総選挙で、自民党は絶対安定多数(269)を大きく上回る296議席を獲得して圧勝。政権交代を訴えた民主党は大幅に議席を減らす惨敗となった。導入から4回目となった小選挙区制、2回目となったマニフェスト型選挙から見えてきたものは――。

小選挙区制で派閥崩壊へ

私はこれまでに9回の選挙を経験してきた。若い時には、支持者からしばしば「政策を話す暇があったら握手してこい、あいさつに行ってこい」と言われ、そのたびに疑問を抱いていた。

衆議院議員時代は5人区の中選挙区から立候補していたが、同一選挙区から自民党候補者が3人も4人も出馬する。すると政策ではなく、人柄や、地元や業界団体への貢献度合いを競い合う。そのため連呼によって自分の名前を印象づけたり、業界団体から支援を取り付けることが選挙戦の重要な要素になった。

有権者の15%程度の支持があれば当選できるという、いわゆる「15%理論」が言われた。このことは、全体益ではなく、農林族や商工族など特定利益のために働けば当選できることを意味する。そしてパトロンとクライアントの関係で、各省庁別に国会議員が色分けされる。これは制度がさせているのであり、その悪循環を断ち切るためにも、中選挙区制を廃止し、小選挙区制を導入すべきだと私は思った。

小選挙区制での当選者は一人。最多数の支持を集めなければ当選できないシステムであり、特定団体の支援だけでは限界がある。今回、4回目となる小選挙区制による総選挙が行われたが、いわゆる族議員の集合体で、総合デパートと称された経世会(旧・橋本派)をはじめ、自民党の派閥は崩壊してきた。このことは、選挙制度が変えた大政治改革だろう。

マニフェストの策定過程も公開を

今回、参院本会議での郵政民営化法案の否決を受けて、小泉首相は衆院を解散した。手続き上の問題はあったが、郵政民営化に「賛成か反対か」という分かりやすい選択肢を有権者に示したことが、自民党圧勝の要因になった。

03年総選挙の時には「マニフェストとはなんぞや」という議論が多かったが、今回は当然のごとく各政党はマニフェストを作成し、公表した。そのことだけを見てもだいぶ進化したと思う。

だが、自民党のマニフェストは問題点もあった。マニフェストは体系だった政策集であり、自民党は郵政民営化法案については「次期国会で成立させる」と明確に示したが、そのほかは抽象的な表現がほとんどで白紙委任に近い。

マニフェストはまだ発展途上にあるが、党内で十分時間をかけてまとめ、選挙で問うという習慣をつけていくべきだ。マニフェストの発祥地であるイギリスでは1年も2年も議論を重ねてマニフェストを作成する。マニフェストとディベートが選挙の中心だ。日本でも各政党はいつ選挙があろうとも、独自のマニフェストを作成する努力を怠ってはならないし、作成過程もすべて国民に情報公開すべきだろう。

与党は前回のマニフェストの業績を問われ、野党は対案を掲げるのが本来の総選挙。今回の解散は、「郵政解散」ではなく、本当は「郵政挫折解散」。党内の議論が不十分、つまりは自民党総裁としての不手際を総選挙に振り替えた。

マニフェストは、政治文化を進化させる道具になる。マニフェストを本当に機能させるためには、公職選挙法をはじめ政治資金規正法、公務員法などを改正すべきだし、政党による政策シンクタンクも必要になる。それら民主主義のインフラが整備され、総合的な判断に基づき、高投票率で選挙を行うという文化を根づかせたいと考えている。

「パンドラの箱を開けた」

小泉首相が、郵政という税金や年金よりも、国民にとっては切迫していないテーマを選挙の焦点にしたことは、いい悪いは別にして、選挙手法としては巧みだった。

郵政民営化は、全国特定郵便局長会という従来の自民党の支持団体を、全体益のためにカットすることにつながる。既得権益に初めてメスを入れたという点では評価できる。一方で、医師会や農協など、他の集票団体はどうなのか。

タックス・ペイヤー・サイドの政治を推し進めるとなれば、この流れは止まらない。自民党の体質改善、解体への道を歩み始めたという意味で、私は「パンドラの箱を開けた」ととらえている。一方、民主党も当然、支持基盤の一つである労働組合との関係を整理する必要に迫られる。これも小選挙区制の持つ力だ。

また、自民党では、郵政民営化法案に反対した前職の選挙区で、党本部と県連との間でねじれ現象が起きた。

ある意味で、中央集権と地方分権のあり方を内包した選挙でもあった。このねじれ現象を解消するためには、地方分権の進展が大前提条件になる。分権を進めていけば、選挙制度も、政党も分権型の組織に変わっていかなければならない。このことは、マニフェスト運動を始めたときから私がターゲットにしている課題の一つだ。

その行き着く先はさまざまな形があろうが、一つはローカル・パーティー化、もう一つは同一政党間でも、地方と中央との関係が上下・主従から、対等・協力の関係になることだろう。

政治はエモーショナルなもの

財源を含めて、地方の課題を地方自らの力で解決できるようになれば、国会議員は国の仕事に傾注できる。そのためには、地方と国との事務区分を明確にしなければならない。

小選挙区制ではマニフェストは必須になる。体系だった政策集を示し、この国の基本的なルール、制度、法律を決めることが国会議員の役割だというところまで変わらなければ、選挙・政治文化は変わらない。今回は劇場型選挙と言われたが、より政策中心の選挙にするには、プレゼンテーション能力を候補者、特に党首は備えることが必要だろう。

政治文化は基本的には、選挙のあり方によって変わってくる。私は政治に科学が必要であり、そのためにも体系だった政策集であるマニフェストでの選挙を提唱した。

小泉首相が取った今回の手法は、非常にエモーショナル(感情的)なものだった。政治はもともとエモーショナルな要素を持つが、だからこそ私は科学的なシステム、間違いのないシステムが必要だと考える。なぜなら多数決原理による民主政治は、独裁に走る可能性があるというもろさを持っているからだ。そのことを絶えず意識しておかなければいけない。

(構成/本誌・千葉茂明)

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