月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

05年04月号 地方分権シンカ論22
県民の負託に応えるためにも、「知事に厳しい」行政監査が不可欠

三重県監査委員は2002年度から新たな評価方式による行政監査を導入した。監査委員及び事務局職員が186万県民の「アセッサー」として厳しい目で知事・執行部を評価することが、県政全体の進化につながっていく

財務監査は「情報非公開時代」のもの

私は、「生活者起点」をキーコンセプト、「情報公開」をキーワードに県政改革を進めてきた。PLAN-DO-SEEのマネージメントサイクルは、最終的には主権者である県民に評価していただくことになるが、実際にはシンクタンクなどが育たなければ難しい。

市民の中からNPO「評価みえ」ができ、評価システムの開発やコンサルティングを展開しており、その動きを期待していた。同時に私は、議会と監査委員という現行のチェック機構を活性化させることが、県政全体の進化のために必要だという認識があった。

従来の監査は、基本的に財務監査。これが私には、情報非公開が生んだ文化だと思えた。なぜなら情報公開を徹底したならば、財務監査はほとんど不要になるからである。監査を変えるため、「県政そのものの評価をぜひ行ってほしい。知事はじめ執行部に厳しい評価で構わない。監査委員の監査に応えられなくては、186万県民の負託に応えられない」と要請した。

監査委員事務局を強化

95年頃から全国的に食糧費問題が起きたが、三重県では96年5月の新聞記事によって職員のカラ出張問題が発覚した。阪神・淡路大震災が発生した95年1月17日に、監査委員事務局職員が佐賀県に出張したことになっていた。大震災で交通網は寸断され、あり得ない話だった。県民やマスコミから強い批判を受けたが、私は、この旅費の不適正執行を県政改革に活用しようと考えた。

監査を行う職員がカラ出張をしていたのだから信用がいわば地に墜ちていた。普通ならば職員の数を減らすだろうが、私は逆に増やし、監査を変える決意を示した。

人事ローテーションも変えた。それまで監査委員事務局の職員は、出納局など特定の職場をルーティンのように異動していた。監査のように、県政全体を把握できる部署を経験することは総合行政を展開する上で非常に有益。若いときから経験させておくべきであり、人材養成・育成のためにも、さまざまな部署から優秀な職員を配置した。そのことが結果的に、監査委員事務局職員の質的向上を格段に図ることになった。

県庁の中にいると、ともすると行政優位の発想をしがちだが、主権者は誰か。県ならば県民であることは明白である。さらにITの進展で、情報革命が起きている。人間は、隠せると思ったら隠すし、逃げられると思ったら逃げようとする。しかしいまや、隠して先送りできるような時代ではない。

監査委員事務局職員のカラ出張が明らかになったように、いずれ白日の下にさらされる。であるならば、なまじ隠すのではなく、最初から公開したほうが精神的にもはるかに楽である。

VFMとBVの視点

監査委員事務局の職員は徐々にスキルアップし、新しいタイプの行政評価を模索し始めた。ところが行政監査といっても当初は方法が分からず、国内のベンチマーキングを行い、さらに海外の方法を学ぶためにイギリスにまで調査に行った。

その結果できたのが、従来の合規性、正確性、経済性、効率性、有効性の観点に、VFM(バリュー・フォア・マネー:金額に見合う価値)とBV(ベスト・バリュー:サービスの質と改善可能性の評価)の視点を加え、客観的データに基づいた新しい評価手法(5段階の定量方式)による行政評価の構築だった。

評価項目は、施策の目的、目標の妥当性と水準を評価・検証するために必要な1)事業妥当性 2)目標達成度 3)有効性、目標達成のための事業実施状況や進め方を評価・検証するために必要な 4)経済性・効率性 5)品質十分性 6)公平性・計画性 7) 行政活動――の七つ。この七つの評価項目の合計点(35点満点)に基づき、AA、A、B、C、Dの5段階で総合判定するものだった。

監査では、5段階の評価結果をレーダーチャートに分かりやすく示した。そのことによって、たとえば、この施策は「事業妥当性」は十分だが、「有効性」が不十分だなど強みと弱みが一目で分かる。

執行部では政策推進システムの本格導入で、施策―基本事業―事務事業の3層評価を始めていたが、どうしても文章と数字が主体で一般には分かりづらい。NPO「評価みえ」が評価をしたときに図式化しており、それを見たとき「やはり役人とは発想が違うな」と思った。監査委員はその手法を応用している。監査のように、「分かりにくい記述」の象徴のような部署が最も分かりやすい手法を取り入れたインパクトは大きかった。

私は新しい手法による「行政監査(評価)結果報告書」が出されて半年後に知事を辞めたが、次の段階では監査結果によって改善が図られなければいけない。監査の結果、負担に対する受益が高まることを県民に示すことで、職員に対する県民の信頼も高まっていく。100万円の税金に対して、150万円、200万円の受益があったと県民が実感できるようにしていくことが求められる。

監査を通じて透明性を向上

監査委員は独立した機関であるのに、実態的には知事・執行部にものすごく遠慮していた。ところが、新しい評価方式による行政監査を導入することで、不十分な点は遠慮せずに指摘するようになった。そのほうが当然、「県民に代わって監査を行う」というミッション(使命)を果たすことができる。

監査を受ける側の意識も変わらざるを得ない。従来は、監査に対して、なるべく情報は出さないようにする意識が働いていた。隠したほうが外部から批判されないためである。ところが新しい監査の方法では、問題点を含めて積極的に情報を出したほうが評価が上がる。本来の監査はそのようなものだと全職員に認識してもらうことが重要だった。

監査委員事務局の職員が海外にまでベンチマーキングに行くことなど従来は全く考えられなかった。それを、やればできるという文化に変えていった。そして、監査を通じて、県の施策の透明性をより高めたり、政策立案能力を高めていく。

私は、執行部はもとより、監査や出納、議会などの成長が県政全体の進化につながることを確信していた。

(構成/本誌・千葉茂明)

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