月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

05年01月号 地方分権シンカ論19
行政経営品質向上活動で、行政経営の「質」を高める

三重県では1999年度から「行政経営品質向上活動」に取り組んだ。行政運営を経営ととらえて継続的に改善・改革を進め、行政経営の質を高めて県民から見て価値の高い行政サービスを提供する。同活動は政策推進システムとともに、エクセレント・ガバメント(卓越した自治体)をめざす県政2大戦略として、強力に推し進められた。

「生活者起点」に合致

1995年に「日本経営品質賞」が創設され、私も利益優先ではなく顧客満足を第一とする理念に注目していた。経営品質は元々は民間の経営革新の手法であり、あらゆる改革のメソッド・ツールの元になる。個別の改善手法を先に考えるのではなく、むしろものの考え方、理念を真剣に追求し、その中から強み・弱みに気づくことが大事。そこから必要に応じてISO9000シリーズなどの改革手法を取り入れていく。

経営品質向上活動には八つのカテゴリー(経営幹部のリーダーシップ、経営における社会的責任、顧客・市場の理解と対応、戦略の策定と展開、個人と組織の能力向上、価値創造のプロセス、情報マネジメント、活動結果)があるが、これらはまさに私が掲げた「生活者起点」の理念に合致する考え方だと思った。

政策推進システムを支える

三重県では96年度から事務事業評価システムに取り組んだが、政策―施策―基本事業―事務事業の体系の中で事務事業は最も細かな事業。当初はそのほうが評価しやすいと考えたが、2,3年経過すると、労多くして益が少ないことに気づき始めた。

事務事業は政策や施策に基づいて決まるので本来的に無理があった。公務員が最も嫌う「評価」をシステムとして導入した意義は大きかったが、職員はいつの間にか、事務事業評価システムを予算獲得の道具に使い始めた。そこで、バージョンアップに向けての検討が始まった。

従来、自治体は総合計画を中心に仕事を進めてきたが、そのときの所与の条件は中央集権であり、情報非公開。たとえば農林水産部ならば、部内が農業振興課や林政課、水産課などに分かれ、それぞれ国の省庁とタテ割りで結びつき、そこでの政策を積み上げ、最終的に総合計画になっていた。このような組織からは改革と言っても減量型の一律一割カットのような発想しか出てこない。

そうではなく民主主義ならば、県でいえば選挙で選ばれた知事が掲げたビジョンに基づいて戦略が立ち、部局長が戦略に基づくミッション(使命)を示すようにしなければいけない。

ビジョンから予算や組織、定数、人事評価をリンクさせ、回転させるのが「政策推進システム」。政策推進システムを支えていくには人材開発と、組織を変えていく考え方が必要になる。つまり、政策推進システムを支えるための重要な戦略が行政経営品質向上活動だった。

失敗は成功の母

行政経営品質向上活動に取り組んだ99年度は、社会経済生産性本部にコンサルティングと報告書の評価まで委託を行った。そのとき県庁全体ではB+(1000点満点で480〜490点:経営幹部が強いリーダーシップで経営品質をリードし、主要な領域でその取組が展開されているレベル)という評価を得た。民間の企業平均(390点程度)より高かったが、各部局ごとの評価が全庁の評価に比べ低いなど私は非常に不満だった。

01年4月に泊まり込みで第1回県政戦略会議を行った際、私は行政経営品質向上活動と政策推進システムを県政2大戦略として取り組むことを表明した。さらに部局長にはリーダーシップを発揮して行政経営品質に積極的に取り組み、その成果として「Aレベル(500点以上:経営品質改善、組織改革への取組が多くの領域で展開され、その結果として多くの領域で良好な結果が見られるレベル)を目指せ」と指示を出した。

各部局を競わせることで行政経営品質向上活動の浸透を図ろうとしたのだが、結果的に、点数競争に陥ってしまった。

01年度は自部局の推進者と他部局のアセッサー(評価者)で編成するチームでアセスメントを行ったが、自部局の推進者は他部局のアセッサーから仕組みの不十分さを指摘されても、「そうではない」と組織を守る傾向が出てきたのである。

本質的にはクオリティの向上が目的だが、点数という短期的な目標にとらわれ、一時、本質を見失ったのは事実。しかし、いま振り返ると、必要な「失敗」だったとも思う。たとえば、それまでは情報非公開の文化の中でかばい合い、他部からの評価はある種タブーだった。他の部からも平気で評価を受け、それに耐えられなければ実は外部評価、県民からの評価に耐えられない。そのことをアセッサーによる評価は気づかせたと思う。点数競争の反省から、02年度には強み・弱みを把握するためカテゴリーごとの評点は示すものの、トータルとしての評点は出さないことにしたのである。

私は職員に対して「失敗は成功の母だ」とよく話した。「自分たちはやっている」というのは静態。思考が止まれば改革はできない。そうではなく、動態として「もっと直そう」という意識が必要なのである。点数競争に走ったことは間違いだったが、道程の一つとして経験しなければ、品質向上の本質を深く考えなかっただろう。

行政経営品質は岩手県・三重県・高知県・茨城県や東京都三鷹市、岩手県滝沢村などで行われているが、まだまだ自治体での取り組みは少ない。だが、地方分権で真に自立していこうと本気で思うならば、それぞれの自治体は質を向上させなければならないのは明白。いずれ経営品質の考え方は確実に自治体に広がっていくだろう。

「気づき」による自己変革

私の県政改革は、政策開発を多少犠牲にしてでも人材開発やプロセス・システム開発に費やした。いくら立派な施設を造り、ルールを設けたとしてもシステムやプロセス、人材が変わらない限り、全体最適にはたどりつけないからである。

予算や定数などと異なり、行政経営品質は一見分かりにくい。それでも職員はかなり変わってきたと私は感じた。

新しい価値を創造した途端、新たな問題が発生する。そこでまた新しい価値を創造する、という永遠のサイクルが求められる。改革のきっかけは「気づき」。気づき、改革していく土壌をいかにつくっていくか。その土壌づくりに行政経営品質向上活

動は大いに役立った。気づきによる自己変革がなければ、新しい価値を生み出すことはできない。

(構成/本誌・千葉茂明)

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