月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

04年12月号 地方分権シンカ論18
人材育成は「管理型」から「能力開発型」へ

三重県は1997年3月に「三重県人材育成ビジョン」を策定、98年には自治研修所を政策開発研修センターに改称し、人材育成は「管理型」から「能力開発型」へと大きく舵を切った。職員には、自らキャリアデザインを描いていくことが求められている。

人材育成は“ビップ”で

三重県では96年7月に副知事を委員長とする検討委員会を設け、翌97年3月に「三重県人材育成ビジョン」を策定した。

ビジョンは、県が求める人材像を明確にし、人材育成について基本目標と基本方針を定めたもの。その中で、1.ベンチャー思考(失敗を恐れず何事にもチャレンジし、戦略的政策を構築する)2.イノベーション思考(現状の事務事業に満足することなく、新しい手法を用いて改革・改善する)3.プロフェッショナル思考(生活者を起点に県民満足度を追求する)――ができる人材を育成することを打ち出した。この三つの頭文字を取って私は「人材育成はビップで行う」と強調した。

自治研修所は総務部が所管し、ごく普通の階層別研修などを行っていた。95年7月から「さわやか運動」が始まり、総合計画「三重のくにづくり宣言」、行政システム改革と進めていくうちに私は、根本的に人材育成のあり方を変えていくべきだという思いを強くした。

そこで、98年4月に自治研修所の名称を「政策開発研修センター」と変え、所管も総務部から、当時では例のない企画部門に移した。センターでは、職員が自ら進んで参加する「マイセルフ研修」(政策立案・法務能力、政策実施・評価能力の向上を主眼とした研修)やキャリアデザイン研修など多彩なメニューを揃えていった。地方分権時代にふさわしい人材育成を行う組織に徹底的にセンターを変えていったのである。

私は、県政改革を進めるにあたって人材育成こそが最も重要なポイントになると考えていた。そのため、意識したわけではないが、結果として、職員一人当たりの研修予算が、97年度の3,793円(全国39位)から、98年度には1万485円となり全国1位となった。

クロスファンクショナルな形で新政策を

若手職員の柔軟な発想を「さわやか運動」に取り入れるため、本庁に2グループ、七つの県民局に各1グループの計9グループを、さわやか運動「若手ワーキンググループ」として設置した。そこでは地域振興や県民参画などを議論し、まとまった政策を三役が聞き、いい政策ならば具体化していった。

「若手ワーキンググループ」はさわやか運動終了後、98年度から政策開発研修センターの「政策研究ワークショップ」として引き継がれた。これは部局を超えて集まった職員が県の行政課題について自由に研究し、最終的には研究成果を三役にプレゼンテーションするもの。そこからさまざまな政策が生まれたが、中でも従来にない形で実現したのが「e-デモクラシー」だった。

これは2001年度のワークショップで、実際に県の事業として採択し、即01年度補正予算で対応。そして、ワークショップのメンバーがそのまま「e-デモ」の担当となった。クロスファンクショナルな形で知恵を出し合うことで、新しい政策が生まれてくる。そしてその政策をつくった職員がそのまま担当者となるのだから、いわば県庁版の恷ミ内ベンチャー揩ニいえる取り組みだった。

また、各所属で特定の問題意識や改善テーマを持った職員が集まり、具体的な改善提案をし、実践する小集団の活動「さわやかサークル」が多いときには200もできた。日常の職務と離れた視点で改善に向けて対話し、提案していく。この活動自体がオン・ザ・ジョブトレーニングになった。

このようなクロスファンクショナルな形のプロジェクトチームが県庁文化を大きく変えていったと思っている。

研修の充実こそが改革効果を生む

従来、自主的研修に手を挙げる職員は特異な存在だった。そして庁内では、むしろ組織の和を乱すような行為とさえ見られていた。

私の発想は正反対だった。6,000人の県庁職員がそれぞれ仮に1割能力が上げたならば、結果的に5,400人で同様の仕事ができるようになる。定数が同じならば、6,600人分の仕事ができるようになる。職員一人当たりの研修費が高くなっても、はるかにそちらの方が効果が高い。新しい価値を生み出すために、日々研鑽を積み、自らキャリアデザインを描いていく。一方で、既存の体制にもたれ、上から言われることを嫌々行う。どちらの職員が分権時代に求められるかは明白だろう。

一つ心残りなのは、センターの名称に「研修」という言葉を残したこと。研修という言葉には、どうしてもやらされ感のイメージがある。「研修」をはずした「政策開発センター」というようなイメージを持っていたが、どうしても一気にはいかなかった。自治体は今後、他の自治体や大学などの研究機関、民間企業、住民などと積極的に協働して政策を開発していくことが求められる。職員の研修機関もシンクタンク的な機能を担うものに変化させていく必要性があるだろう。

議会図書室も有効活用

そうした外への広がりを意識して始めたのが『地域政策-あすの三重』という政策研究情報誌の発刊だった。外部から編集長を招き、編集は政策開発研修センターが行った。私が指示したのは「市販に耐えうる情報誌に」ということ。論文の執筆依頼や情報収集などを通じてセンターの職員は人脈を広げていき、論文執筆などを通して県職員も育ってきた。自ら政策を立案・決定し、自ら責任を取る理論構築をトレーニングする場に『地域政策』はなったと思っている。

地方分権の流れの中で自立型の経営をめざすならば、当然、政策法務能力が必要になる。そこで着目したのが議会図書室だった。議会図書室は、議員の調査研究に資するため設置され、一般利用が可能であることが自治法に規定されている。ところが実際には議員への遠慮などから職員は使いにくい雰囲気があった。

そこで議会側と交渉し、まず利用時間の延長を行った。従来は午後5時で閉まっていたが、業務時間中なので職員は利用しにくい。これを貸し出し手続きは7時まで、利用は8時までできるようにした。政策開発研修センターのスタッフが午後5時以降の議会図書室を議論の場とするため、研修会や勉強会などを仕掛けていった。これは資源の有効活用であり、ファシリティーマネージメントでもあった。

(構成/本誌・千葉茂明)

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