月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

04年10月号 地方分権シンカ論16
ベンチマーキングの導入で、外に開かれた組織に

三重県は1998年度から民間企業の改革・改善手法である「ベンチマーキング」を導入した。ベンチマーキングを取り入れたことで、三重県は「中庸」意識から脱却。外部に開かれた組織となり、内発的に気づき改善する県庁風土づくりに弾みがついた。

プロセスや仕組みを重視

役人は一般に、どのような政策を立案するかという議論は非常に熱心に行うが、むしろ私は、政策立案に至るプロセスや仕組みが整っていれば、結果的にすばらしい政策ができると考えていた。そのため私の三重県知事としての8年間の改革は、プロセスや仕組みを重視した改革だったとも言える。

行政改革を進めるためのスキルとして政策評価システムやオフサイトミーティングなどを取り入れていったが、ベンチマーキングもその一つだった。私自身も、GE(ゼネラル・エレクトリック)の改革に取り組んだジャック・ウェルチが、最も成功したのはベスト・プラクティスをベンチマーキングすることだと書いていたことに触発されていた。

三重県ではベンチマーキングを「改革しようとしている業務のプロセス、仕組み、結果としての業績、業績を実現するための戦略・組織などあらゆる経営要素を対象として、取り上げた要素について最も優れている他組織(民間企業を含む)の事例を徹底的に研究し、そこから改革に向けた実践的なアイデアを得るもの」と定義した。

つまり、ベンチマーキングは他組織との比較を通じて自組織の課題を明確にしたり、課題解決のためのベストな仕方を見つけ、自組織を改革・改善していく方法である。

海外の自治体、企業からも学ぶ

まず行ったのは各県比較。そこですぐれた手法が見つからなければ今度は国に当たる。国の機関等を調べて、そこにもなければ次は民間企業へ。民間企業へのベンチマーキングからは非常に得るものが多く、職員派遣も積極的に行った。

そして職員はベスト・プラクティスを求めて海外へも行くようになった。アメリカやカナダ、イギリスなどの政府や自治体はもとより、海外の民間企業へも行きはじめた。このような体験を通じて、「井の中の蛙」だった職員は大海を知り、物の見方や考え方が変わってきた。

産業廃棄物税のたたき台をつくった「県税若手グループ研究会」では、検討過程で20代の女性職員がヨーロッパまで税のあり方について調査に行った。法定外目的税である産業廃棄物税を三重県でつくることができた背景にはベンチマーキングの導入があったとも言えるだろう。

従来の視察では相手方の取り組みに感心することで終わりがちだったが、ベンチマーキングは異なる。事前に学習し、たとえば「私どもでは現在この部分は成功をおさめているが、この部分の機能は非常に劣っている。つきましては、この点について、私どもと比較して教えていただけませんか」とはっきり目的と具体のテーマを掲げて行く。

従来の視察は、ややもすると視察に行ったことで満足感を得ていた。そして「あそこは財政が豊かだからできる」、あるいは「うちの県は規模が異なるからできない」といった言い訳の材料にしていた。ベンチマーキングは規模が異なっても、目的を達成するために、いい取り組みを行っている組織の成功要因を追求し、県の組織に合う形で取り入れていくもの。意識改革が進んでくると職員は言い訳の材料には使わなくなってきた。

役所は結果を重視しがちだが、ベンチマーキングではプロセスを重視する。そして「なに」をやっているかよりも「どのように」というHOWに着目するのである。

勝ち・負けではなく、強み・弱みを見つける

なぜ三重県でベンチマーキングの導入がうまくいったのか。ベンチマーキングは勝ち・負けを問うものではないからだと思っている。職員はみんな負けるのは嫌だから、勝った負けたの議論はやりたがらない。勝ち・負けではなく、強みと弱みを見つけるために、ベスト・プラクティスをベンチマーキングする。その結果、弱みを改善し、強みをもっと伸ばすといった議論ができる。

ベンチマーキングでは、実際に相手先を訪問することよりも「テーマ選定」が最も重要になる。テーマ選定について十分議論を行い、チーム員全員が納得できるまで検討する。自分たちの強みや弱みを学習して、なおかつ、訪問先で刺激を受けて、強み・弱みの分析を行い、具体の施策に落とし込んでいく。

内発的に気づいて改善

ベンチマーキングのメリットはいくつかあるが、一つは組織が非常に外向きのものになること。三重県は人口や面積、財政など多くの指標が全国比較で真ん中くらいで「中庸」の県だと言われ、職員にもそのような意識があったが、質的にトップをめざす姿勢になってきた。そして、総合行政への展開が容易になってきた。一つの部署だけの取り組みでは効果が上がらないことをベンチマーキングを通じて学習してきたのである。

役人は、外部から弱みを指摘されることを嫌う。自ら弱みをさらけ出そうとしないし、直そうとはしない。ところが自分たちで調べて、強み・弱みを内発的に気がついて直すのだから、必然的に組織が外向きになっていく。

一つの事を成していくときに、民間企業ではあらゆる部署が連携して行う。縦割りの弊害がよくわかり、職員は必然的に総合行政の有効性に気がつく。

このように自ら気づき直す手法がベンチマーキングである。上司からの指示や他人からの批判ではなく、内発的に気づき、改善する点がよかったと思う。

県政改革を進めていくと、次第に三重県自体がベンチマーキングされるようになった。全国からベンチマーキングされるようになってくると、職員はますます努力するようになり、内発的な改革が進んだ。

しかし、導入して3年も経つと、職員は慣れてきて、ベンチマーキングもスマートにやろうとする。本当は無骨に、試行錯誤を繰り返すという学習効果にこそ真意がある。

さらに高いレベルに行くには、トップマネージメントがしっかりしなければいけない。改革は、一定レベルに到達すれば終わりというものではない。絶えず改革の方向にベクトルが向かって進んでいるという、動態でなければならないといつも私は思っていた。

(構成/本誌・千葉茂明)

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