月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

04年09月号 地方分権シンカ論15
ITは従来の政治・行政のあり方を根底から変える

三重県は北川知事の誕生以来、IT革命の重要性を認識し、「情報先進県づくり」に精力的に取り組んできた。IT革命によって時間と空間の壁がなくなることは、これまでの民主主義や資本主義の姿を変えることを意味する。そのことは同時に政治・行政のあり方を根底から変えることにつながる――。

BPRに着目

私は1995年の知事就任時の頃から、現代は農業革命、産業革命に匹敵するほどの文明史的転換点にあるという時代認識があった。89年に東西ドイツを隔てていたベルリンの壁が崩壊し、91年には旧ソ連が解体したが、いずれも武力によるものではなく無血革命だった。いくら壁を造ろうがIT(情報技術)の発達によって、時間と空間がなくなり、隠し通すことができなくなった。つまりITによってこれらの革命は行われたとも言える。

90年代初め、衆議院議員だった私は「ニューウィック議員フォーラム」という超党派の議員連盟をつくっていた。WIC(ウィック)とは「ウェルフェア・インフォメーション・コミュニケーション」(福祉・情報・通信)の略。国会の議員連盟の多くはサプライサイド(供給側)のものだが、ニューウィックはユーザーサイド(消費者側)に立った恐らく初めての議員連盟だった。議員連盟ではIT革命が進むと当初はどうしても生じてしまう情報デバイド(格差)の問題などについて議論していた。この頃、元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー氏と、経営コンサルタントのジャイムズ・チャンピー氏の共著『リエンジニアリング・ザ・コーポレーション』が世界的なベストセラーになり、日本にも伝わってきた(邦題『リエンジニアリング革命』/日本経済新聞社)

この本の中で生み出されたコンセプトがBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)である。BPRは伝統的な企業組織を全否定し、プロセス志向の新たな組織構造をゼロからつくり出すもの。BPRは企業に変革をもたらす思想だが、私は政治・行政の世界にも応用できると着目し、日本のリエンジニアリング研究の第一人者である梅沢豊・東大教授(当時)を訪ね、その内容を詳しく教えてもらった。

BPRを導入した企業は、フラットな組織、知識重視、エンパワーメント重視となり、そこではITが情報共有や意思決定などにおいて重要な役割を果たす。このような時代認識や個人的な蓄積などから選挙公約に「情報先進県づくり」を入れたのだった。

三つの先進県づくり

三重県では96年に学識者らによる懇話会を設置し、翌97年に情報化の指針となる「21世紀三重情報化社会推進プラン――デジタルコミュニティズへの旅立ち」を策定した。その基本理念は「デジタルコミュニティズの創造」であり、情報通信ネットワークを活用し、誰でもいつでも、どこでも、自発的に情報を受発信し、交流することで新しい豊かなネットワーク社会を築いていくことをイメージしていた。

そのような社会を実現するために1.サービス、コンテンツ、情報通信基盤が充実した豊かな情報生活の実現をめざす「情報サービス先進県」2.個性に応じた人材の育成を図り、県民一人ひとりが主人公となる情報化社会の実現をめざす「情報ひとづくり先進県」3.情報ネットワークを利用し、県民に開かれた住民参加による地域づくりの実現をめざす「情報デモクラシー先進県」――という三つの先進県づくりをめざすことにした。

このプランの実現に向け、まず県庁の情報化を図ろうと96年度からパソコンの配備を始めたが、最初はどうしても抵抗があった。

幹部職員からパソコンを配備していったが、これは明らかに失敗だった。最も操作が不得手で、使いたくないのが幹部職員。途中で誤りに気づき、パソコンの一人一台体制は00年6月末に達成した。「ソフトも伴っていないのに」などかなり批判も受けたが、使わざるを得ない状況をつくり出したことで急速に職員のパソコン活用能力が向上していった。

学習する、進化する組織に

職員が業務に活用し始め、97年度には本庁舎のLANを、98年度には庁舎間のWANを整備した。その後、電子決済システムなどを稼働させていったが、欠陥が生じてやり直したこともあった。しかし私は意に介さなかった。

私は県庁を学習する組織、進化していく組織にしようと考えていた。そのため、前向きにチャレンジする試行錯誤はむしろ評価し、職員にはしきりに「失敗は成功の母だ」と話した。失敗することによって成功が生まれるという発想は、それまでの県庁文化にはないものだった。語弊を恐れずに言えば「新価値を創造するのだから、失敗も覚悟してやれ」という思いだった。

また、地域情報化では、公共でのインフラ整備は極力控え、なるべく民間にインフラを整備してもらうことにした。それを県がユーザーとしていち早く使うことによって、市町村や民間へも広げていこうと考えていた。

99年に海外からの光海底ケーブルが阿児町に複数本陸揚げされるという情報が入ってきた。そこで立ち上げたのが「志摩サイバーベース・プロジェクト」。光海底ケーブルの陸揚げが集中していること、県内のケーブルテレビ網の高いカバー率を生かして、ブロードバンドの情報通信ネットワークの整備を促し、情報産業やITベンチャー企業の育成を図ろうと計画したものだった。

プロジェクトの推進には、民間活力を生かそうと第三セクターの株式会社サイバーウェイブジャパン(CWJ)を設立。プロジェクトの一つでは、障害者の自立支援事業に取り組んだ。たとえば足に障害があってもITを駆使できれば、在宅での就労機会も増える。この事業はまさにITが空間も時間も超越することを示したものだろう。

役所はペーパーレスに

今後ITがさらに進化していけば、自治体は一気に変わる。紙文化が前年よりも売り上げ1割増、経費1割減のレベルの話だとすると、ITの世界は桁が異なる。倍々ゲームでものの価値が100万倍ぐらい変わるものが出てくる。しかも時間、空間を全く問わない。そこでパラダイムシフトが起きる。既存の文化や社会の根本的な考え方が変われば、これまでの民主主義や資本主義はその姿を変える。そうなれば政治・行政の姿は根底からすっかり変わる。

いまインターネット上の商取引が急速に増え、ストアレス社会に移行しつつある。同様に、電子自治体化が進めば、役所はペーパーレスになり、いずれオフィスレスになる可能性もあると思っている。

(構成/本誌・千葉茂明)

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