月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

04年05月号 地方分権シンカ論11
「形」を変えるFMで新価値を創造

職員の意識改革をどのように進めるか。三重県では「さわやか運動」や事務事業評価システムなど新たなスキルの導入によって進めてきたが、同時に自治体では余り着目されていなかったオフィス改革にも先駆的に取り組んできた。「形」を変えることはどのような効果をもたらしたのか――。

「形」からの意識改革

職員の意識改革においては、具体的なスキルを導入し、「やればできる」というサクセスストーリーを積み上げていくことが有効だと考え、私は知事就任以来、「さわやか運動」をはじめ、事務事業評価システム、政策推進システムなど毎年のように新たなスキルの導入あるいはバージョンアップに力を注いできた。

同時に重視したのは「形」。形を変えることによって、新たな気づきの機会ができ、それが意識改革を進め、仕事のやり方を変えていくと考えた。

公務員は基本的にまじめで、県民の皆さんの視線を気にする。ところが、自分たちが働くオフィス環境については、管財営繕課あたりが考えたレイアウトや備品で我慢している。「もっと快適なものに」と提案するのは変わった人間だと見られている。

私の認識は異なった。「県民の福祉向上のために快適な職場が必要ならば、なぜ変えないのか」と思っていた。

私から見ても県庁舎の空間の使い方には疑問点がいくらでもあった。たとえば伝統ある部署は庁舎の南側の暖かいところに位置しており、知事室に近い。一方、新参の部署は北側の日の当たらないところにあり、知事室からも遠い。だから「北と南の部署を一度入れ替えてみたらどうだ。考え方が変わるぞ」と話したこともある。

東京事務所にフリーアドレスを導入

「形」から変えることで仕事や意識を変えていくことは、1995年から始めた「さわやか運動」の頃から議論していたが、エポックの一つとなったのは東京事務所のファシリティーマネージメント(FM)だった。

FMとは、「企業・団体などの全施設及び環境を経営的視点から総合的に企画・管理・活用する経営管理活動」のことである。

99年10月に、NHKの「進むオフィス改革」という番組を偶然見たのがきっかけになった。番組の中で紹介されていたFMを県庁に応用できると思い、私はすぐに東京事務所に研究するよう指示を出した。このFMはいずれ県庁のビジネスモデルになると直感した。

東京事務所は99年3月に新築されたばかりの都道府県会館の11階にある。しかし、来訪者との打ち合わせ場所が狭いなど使い勝手の悪いスペースが多く、職員も不満を持っていたようだった。

東京事務所では、早速、(1)CREATION(創造)(2)COMMUNICATION(意思疎通)(3)COLLABORATION(協働)(4)COMFORT(快適)(5)CHANGE(変革)の五つのCを基本コンセプトとしてオフィス改革に取り組んだ。

数か月後、情報化についてのワーキンググループの最終発表が県庁であり、東京事務所の若い職員も参加していた。彼らは事務所の机が乱雑なこと、職務上、外出する職員が多くて机が空いていることが多いことを説明し、「民間で取り入れられているフリーアドレスの導入を検討したい」と提案してきた。フリーアドレスは、個人のデスクを廃して機動的な座席配置を可能とするもので、私は可能性を感じてすぐにゴーサインを出した。

知事室の壁を取り払う

東京事務所では、日本ファシリティーマネージメント推進協会のサポートをいただき、民間の先進事例調査、職員の在席状況や来訪者の調査などを行い、具体的なレイアウト案を詰め、翌年春に報告があった。

そのとき、ある職員が遠慮がちに「知事室の壁がじゃまになっている」と話した。私は即座に「そんな壁、取ったらいいじゃないか。知事室なんていらんよ」と言った。実際、知事である私が東京事務所に行くのは月に数日程度。そのスペースをなくすことで職員の仕事がやりやすくなるなら全く構わなかった。

東京事務所では結局、知事室・所長室を廃止し、来客者用の応接室に集約した。16あった個人机は、その日の業務に応じた3タイプの机(フリーアドレス)にし、文書の電子化によるペーパーレス化・省スペースを図り、新しいオフィスは2000年6月にオープンした。

FMの可能性

ファシリティをマネジメントする、つまり施設を経営資源ととらえると、大きな影響力と可能性がある。たとえば、2001年6月に可決された法定外目的税の産業廃棄物税条例は、この東京事務所のFMから生まれたとも言える。

なぜならば、東京事務所では来訪者(会議)スペースをそれまでの52゚から93゚に広げたことで、学識者などを招いた懇話会や勉強会がやりやすくなった。FM導入後、勉強会等の開催は倍増し、その中で環境税について学者から学んだことが産業廃棄物税に結びついていったのである。

東京事務所は国の情報を集め、補助金の獲得、予算要望が仕事の中心だった。しかし、ITの発達によって霞ヶ関の官庁に行く機会を減らすことができた。その代わり、学識者との勉強会などで新たな政策を生み出す、新価値を創造するための最先端の拠点として位置づけていった。

また、東京事務所では2000年9月から勤務時間の弾力化にも取り組んだ。従来の勤務時間(9時〜17時45分)から、事前申告によって出勤時間(9時と10時)と勤務時間(6時間・8時間・10時間)を組み合わせて6パターンの中から選択できるようにした。さらに企業誘致活動を行う職員は、自分の住居を活動拠点とする「ホーム・オフィス制」も導入した。

これらの発想の根底にあるのは成果主義である。企業誘致活動ならば東京事務所にいちいち立ち寄るよりも、現地に直行したほうが効率的だし、学識者を招いた勉強会はどうしても夜に行うことが多くなる。実際、勤務時間の弾力化によって、時間外勤務時間は大幅に削減できた。

公務員は定時に決められた勤務場所に出勤し、決められた勤務時間の仕事をすることにとらわれているが、これは便宜上のルールに過ぎない。成果を上げるために、勤務時間や勤務場所を弾力化したほうがよければ可能性を検討してみることが必要なのではないか。

(構成/本誌・千葉茂明)

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