月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

04年04月号 地方分権シンカ論10
バックギアのない改革で、県立病院の経営健全化を

三重県では1998年3月、県立病院の経営健全化計画を策定した。98年度から2001年度までの4年間での「収支均衡(黒字経営)」を目標に掲げた計画は紆余曲折を経ながらも最終年度に達成。誰もが「できるはずはない」と思っていた中、経営健全化を成し遂げた背景は――。

「思い込み」を覆す

三重県には県立病院が四つあるが、毎年度30億円以上の繰り入れがあるのに、毎年度10億円以上の赤字が続き、97年度末には累積欠損金が128億円を超えるような状況だった。このような赤字体質に、県議会や行政システム改革での議論では、県立病院の民間移管や民間委託の必要性が指摘されていた。

私は関係者の間に、県立病院の経営は絶対に黒字にならないという「思い込み」があると感じた。そして、この思い込みを覆す必要があると思った。当時は健康福祉部の県立病院課が所管しており、県立病院の存在意義や経常収支均衡の可能性について議論していた。現場職員のヒアリングや職員労組との交渉などを行い、さらに、医師や企業経営者など第三者による病院事業経営健全化委員会で改革案を検討してもらったが、抜本的に改革するならば黒字化をめざすべきで、そのためには地方公営企業法の全部適用を行うべきだという案が出てきた。

言うまでもなく、公立病院の最終目標は収支均衡だけではないが、良質な医療を継続的に提供していくには経営基盤の安定が前提となること、そして収支は誰にでも分かる明確な基準であることからあえて収支均衡を目標として設定したのです。

悪循環から良循環へ

知事である私と病院事業庁長は経営健全化について契約を行った。「目標を達成できなければ、やめてもらいますよ」ということです。同じように病院事業庁長は4病院の院長と契約を結んだ。そして私も病院事業庁長も「これは後戻りのできない、バックギアのない改革だ」と盛んに言い始めた。退路を断ったのです。

経営健全化計画がスタートして、2年目の99年度は赤字幅が大きくなったが、3年目にはだいぶ減ってきた。そして、最終年度を迎えたが、病床利用率の低迷などで途中まで大幅な収益減少になっていた。

病院事業庁長や病院長から私は定期的に報告を受けていたが、秋口に、「知事、とても達成は無理な状況になっている」という。私は烈火のごとく怒り、「断固やれ」と指示した。

従来ならば諦めたかもしれないが、それまでの取り組みで彼らもエンパワーメントされていた。なんと2001年9月に病院事業庁として初めての「危機宣言」を行い、各病院でも緊急職員集会を開催して、職員に対して危機を回避するための対策を要請したんです。職員らは歯を食いしばって頑張ってくれた。

収益確保に向けて院長から院内メールを活用した対話を実施したり、看護部の総決起集会、工業における工程管理の手法を医療に応用した「クリニカルパス」による医療の標準化を行うなど必死の取り組みが行われ、9月以降、増収に転じ、とうとう2001年度決算で14年ぶりに約6,600万円の黒字を達成することができた。

額的にはわずかで、4病院すべてではなくトータルでの収支健全化だったが、私は非常に嬉しかった。実現は難しいとさんざん言われてきた病院の黒字化を達成できたことで、ほかの部署にもものすごくいい影響を与えたと思う。

第一次計画では三つの健全化を掲げていた。1.収支の健全化(数値目標を明確に設定し赤字経営から脱却する)2.機能の健全化(病院のあり方・役割に沿った機能にする)3.自立の健全化(職員の意識を改革し自立できる病院をつくる)――です。これらが機能し始めたら、私の知事在任中に20億円ずつ一般会計からの長期借入金を返してもらえた。

病院の経営改革で私が最も強調したいことは、悪循環が良循環になったということです。

以前はあれが悪い、これが悪いといった責任転嫁の話ばかりだった。ところが健全化計画を進め、収支均衡が達成できると、私に話す内容ががらっと変わってきた。「医者を学会にどんどん出してほしい。それがひいてはいい医療につながり、県民の信頼につながる」「看護師さんを世界で最も進んだニューヨークのナースステーションに派遣してほしい」といったことをしきりに話すようになったのです。

職員の意識を変えた公営企業法の全部適用

病院職員の意識が変わった最大の要因は、病院事業を地方公営企業法の全部適用にしたことです。これによって、労働条件は民間企業と同様に労使交渉で決めることになり、双方とも責任ある対応が求められるようになった。知事部局の一セクションから病院事業庁として独立させ、病院事業庁長は最高経営責任者、病院長は最高経営執行者として従来の管理者から経営者に転換することが求められたのです。

私はあるとき病院事業庁長に、「何が一番効果があったのか一言で言ってくれ」と尋ねたことがある。彼は「クイックレスポンス」と言った。それまでは、病院長は医師や看護師が分かってくれる、現場は患者さんが分かってくれると思い込んでいたが、ほとんど理解していなかった。そこで各病院では1人1台パソコンを実現していたので、院内LANで情報の共有化を図っていった。

もう一つは、ダイアローグ(対話)。病院では専門分野ごとの立場を主張することが仕事だと思い込んでいた。しかし、収支均衡という目標を達成するには、別の分野のことでも口を出す必要がある。するとぶつかり合うが、情報を共有化し何回も対話を重ねながら乗り越えていく。そのためにはクイックレスポンスが重要だったということです。

バランスの取れた経営へ

2002年度からは2年間の第二次経営健全化計画を作成したが、そこでの目標は「経営健全化を定着させる」です。私が非常に評価したいのは、事業の成果を多面的に評価するため「バランス・スコアカード」を県立病院が導入したこと。これは収支・機能・自立の三つの健全化について「顧客」「財務」「内部プロセス」「学習と成果」の四つの視点から評価するもので、バランスが取れた経営をしていくためのものです。

私自身も「病院経営はもうけることだけではない」とだいぶ叱られた。収支ばかりに走りすぎると、医療ミスや事故が起こるかもしれないと言われがちだが、実は逆。健全化計画に取り組むことで、新たなスキルを生み出す。そのことが医療の質の向上につながっていったのです。

(構成/本誌・千葉茂明)

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