月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

04年03月号 地方分権シンカ論9
納得して税を納めることこそ政治・行政の源

三重県と県職員労働組合は2000年5月30日、全国初の「労使協働委員会」を立ち上げた。職員の勤務条件をめぐっては、ややもすると労使が水面下で「対立・妥協」しがちだが、「対等と信頼」を基本に、オープンな場で議論するのが協働委員会だ。労使関係における緊張感のあるパートナーシップはどのようにして築かれてきたのか――。

政策立案型の税務行政に

産業廃棄物税は1999年5月に発足した「県税若手グループ研究会」がたたき台をつくったが、そもそもは当時の税務課長に政策立案型の職員を就けたのがきっかけです。従来、地方税務行政は、国が制度設計したものを適正かつ効率的に執行することを最重要視してきた。しかし、2000年4月から地方分権一括法が施行され、法定外目的税が創設できることを視野に入れると、これまで通りの税務行政ではいけないと私は考えていた。

いわゆる税務プロパーとは異なるタイプの課長が30歳未満の若手職員に声をかけてできたのが研究会です。若手のみで構成したのは、従来の税の常識にとらわれずに自由に発想するためで、私も「大いにやれ」とハッパをかけた。

一方、当時、県の東京事務所ではファシリティ・マネージメント(FM)の考え方を取り入れ、オフィス改革を進め、各種の勉強会を立ち上げていた。そのなかで倉阪秀史・千葉大学助教授を招き環境税について勉強したことで研究に弾みがついてきた。

研究会メンバーの女性職員はヨーロッパまで調査に行き、研究会は2000年3月に「産業廃棄物埋立税(試案)」構想をまとめ、私のところに報告に来た。そして同年4月には機構改革で税務課を「税務政策課」にした。これは、地方分権の立場から自ら政策立案する税務行政に変えようという強い意志から変えたのです。

税による総合行政

私が指示したのは、1.税制のみならず環境政策や産業政策の立場からも検討してしっかりした政策とすること2.県民及びその代表者である県議会や関係者とオープンに議論し、コンセンサスを得ること――の2点でした。

研究会の試案の後、税部門だけではなく環境や産業部門も合わせた形で三重県の政策として打ち出す必要があることから関係部署の職員による「産業廃棄物税庁内検討会議」が発足した。

産廃税はボトムアップの政策です。それを私が取り上げようと思ったのは税務だけではなく、環境政策も思い切って変えようと考えていたからです。これまで環境と経営は対立軸としてとらえられきたが、同軸型の環境経営にしたいと考えていた。環境に配慮していては商売ができないという文化から、環境に配慮をした方がメリットがあるという文化に転換するインセンティブ政策こそ、政治・行政がやるべきだと考えていたのです。

また、産廃税は一つの揺らぎであり、これを契機に職員の意識や考え方、制度を変えていく材料だととらえていた。だからこそ挑戦すべきものすごくいい課題だと思ったのです。

納税側と徹底的に意見交換

税を支払っていただく企業の皆さん、納税者の方とも十分に話し合いをして、お互いが納得した上で進めるべきだと考えていたので、一方通行の強権的なやり方はしなかった。これも前例がないことだったが、2000年8月には一つの案に絞る前に、四つの試案を議会に提出して議論してもらった。そして、排出事業者など関係団体などと100回を超える意見交換会を行い、県内4か所で産業廃棄物税についての県民懇談会を開催した。

担当者らは2001年2月定例会に提案するべく準備を進めており、十分な意見交換ができたと思っていたようだ。だが、私はまだ足りないと判断し、次の機会に提案することを決めた。そのとき職員の顔色は変わっていた。強引に行えば2月定例会でも条例案は通ったと思う。しかし、同じように生み出すにしても、反発されてぎりぎりで通すよりも、みんなに祝福とまでいかなくても「仕方がない、よく努力した」と評価されなければだめだと思った。職員の大変な努力を知っていたけれども、心を鬼にしてあえて「だめだ」とぎりぎりの判断をしたのです。

新しいものを生み出すためには、それぐらい慎重でなければいけない。要するに、ここまでやるかというところまで追い込みたかった。その後、主な納税義務者となる大手の排出事業者62社で構成する三重県産業廃棄物対策推進協議会と県とで産業廃棄物税検討会議を設けて、1か月間集中的に意見交換を行ったのです。

徹底的な意見交換によって、企業の方からは「こんな不景気のときに新税は認めがたいし、納得したとは言いがたい。しかし、好きにしろ」という言葉が出てきた。参ったということです。こうした議論によって、いわば官と民が戦友のような関係になった。「腹は立つけれども、県の職員とこれほど胸襟を開いて話をしたことは初めてだった」という言葉が企業の方から出て、互いに感動を共鳴し合うわけです。この官民協働がその後、構造改革特区の提案に結びついていくんです。

負担と受益を明確にすべき

これまでの集権官治から分権自治の流れは、パラダイムシフトと言っていいほど世の中のすべてを変えるインパクトのある改革であり、どうしても成し遂げなければならない。そのときの決定的な要素はモラル・ハザードを起こしてはいけないということです。現在は国に税金がいったん集められ、地方へ再分配している。すると国から分配を受けることが地方自治体の仕事になってしまう。そうなると、説明責任を果たす対象は、主権者である県民(住民)ではなく、国になってしまう。それは民主主義として、実は成立し得ない制度だと私は思う。

国が一気に高度経済成長をなし遂げなければいけないときの手法として、集権官治が認められる場合があるだろうが、いまのような成熟した社会になれば、納得して税を納めることこそが政治・行政の源でなければいけない。

そのためには地方分権を進め、さらに情報公開によって受益と負担の関係が明確に分かる状況をつくり出す。このように政治や行政の仕組みをつくり直すことが非常に重要だと考えている。

国はよく、地方に権限と財源を移譲すると、利権がもっと横行し、混乱が起こるだろうと言う。当然そうなる。なぜなら訓練されていないから。うまく機能しない自治体もあるだろうが、「失敗する自由も地方に寄こせ」ということです。

(構成/本誌・千葉茂明)

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