月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

04年02月号 地方分権シンカ論8
労使関係は「対立・妥協」から「対等・信頼」へ

三重県と県職員労働組合は2000年5月30日、全国初の「労使協働委員会」を立ち上げた。職員の勤務条件をめぐっては、ややもすると労使が水面下で「対立・妥協」しがちだが、「対等と信頼」を基本に、オープンな場で議論するのが協働委員会だ。労使関係における緊張感のあるパートナーシップはどのようにして築かれてきたのか――。

説明責任が果たせる労使関係を

三重県も多くの県と同じように、労使関係は執行部と職員組合が水面下でのなれ合いでやっていた。私は知事就任当初から、これではいけないと感じていた。

なれあいの労使関係をどのように変えていくか。一つは、組合と真っ向から対立しても執行部の方針を押し通すこと。もう一つは、労使協調路線で変えていくこと。この二つの手法のうち、私は後者を選んだ。なぜかというと、労使が対立することによる行政ロスが余りにも大き過ぎると判断したからです。しかし、労使協調路線でも癒着では全く意味がない。徹底的にオープンな場で議論していこうと腹を決めたのです。

総務部の職員には、「これまで人事課を中心にやってきた組合対策は、情報非公開のなれ合いでやってきたに過ぎない。そういう努力はムダだ」「同じ釜の飯を食った仲だから、うまくやっていこうという考えでは説明責任が果たせない」と繰り返し話した。

職員組合に対しても、県民を見ないで、自分たちの利益の最大化を図ろうとすることは、情報非公開の文化だったからこそ成り立ってきたが、情報公開のもとでは成り立たないと言った。どうせ成り立たないのならば、県民に堂々と説明責任が果たせる労使の関係をつくろう、と呼びかけたのです。

ミクロな改革が全体を動かす

たとえば一つの例として特別勤務(特勤)手当問題があった。私自身、いわゆる困難職場や危険職場には、その仕事の度合いに応じて特勤手当は倍出してもいいぐらいの気持ちがある。ところが仕事の内容は大差ないのに、ある職員には出て、別の職員には出ない。出ている職員はうつむき、ばれるまでもらおうとし、出ていない職員は出ている職員を徹底的に軽蔑している。私は問題意識を共有し、一丸となって県政改革を進めようというときに、こんなことでは絶対にまとまらないと思ったわけです。

特勤手当のほかにも労使間には、長年の交渉の中でできたルールがあるが、一般の県民には理解しにくいことが多い。それを明らかにすると組合は困るが、一方で執行部も組合の名前を借りて認めてきた。だから組合だけでなく執行部も反省すべきだと私は言いました。

説明責任が果たせるような手当はきっちり出す。そうでないところには出さない。このような改革はミクロなことかもしれない。しかし私は、ミクロな改革を積み上げることが全体を動かすと考えていた。

労使で職員満足度アンケート調査

労使協働委員会の創設に当たっては、ややもすると「対立・交渉・妥協」といった言葉で表現されがちな従来の関係から脱却し、労使双方が「対等と信頼を基本としたパートナーとして、県民に対し説明責任を果たせる関係を創っていく」という共同アピールを発表した。

そして、運営面では1.緊張感のある協議の場とするためマスコミに公開して開催する2.「交渉」ではなく、「協議」の場とすることから委員会のメンバーは労使同数とする3.協議事項は、地方公務員法の管理運営事項も対象とし、特に制限を設けない――などの緩やかなルールを設けた。特にマスコミに公開したことが効果的だった。それまで水面下で議論されてきた手当の問題などが表に出ることによって、喉元に刺さっていたトゲが取れたような感じだった。

労使協働委員会を立ち上げたことで、特に人事担当者の意識が変わってきた。労使で協力できるところは協力していこうという姿勢になった。たとえば労使で職員満足度アンケート調査や総勤務時間縮減運動、公共部門の労使関係を調査するための海外調査などを行ってきた。

職員満足度アンケート調査の結果をみると、「人事異動や昇任の仕組み」などまだまだ職員の評価が低い項目もあったが、私は執行部としては受け止めるべき実にいい数字だと思った。指標なくして前進はないわけで、その評価をたたき台にして進化していけばいいわけです。

三重県では、年間総勤務時間1900時間をめざす運動を行っていたが、労使協働委員会ができるまで真剣に議論する場がなかった。いくら目標を掲げても、ノイジー(声の大きい)・マイノリティーが、サイレント・マジョリティーの声をつぶしてきたということが情報非公開の怖さです。サイレント・マジョリティーの声をいかに活かすか、という方向で努力してきたと思っていただきたい。

労使協働委員会は同意をめざす「交渉」ではなく、同意を前提としない「協議」であるのが特徴で、交渉についてはまた別の場で堂々と行う形を取っている。いずれにしても、労使協議制は公共部門では初めて導入したものであり、協議を積み重ねることで進化していく。労使協働委員会がスタートして、県庁が大きく動き始めたという実感がありました。

ただし、労使協働委員会は、組合の経営参加を意味しているものではない。議論した事項については、執行部が責任を持って判断するものです。

首長のマニフェストを実行するのが公務員

いま国では公務員制度改革が議論されているが、労使関係はすべてオープンの場で議論すべきです。守秘義務にとらわれ情報非公開でやっていては、主権者たる国民には受け入れられない。

公務員は全体の奉仕者だと言われるが、時の内閣や首長の方針に従わなければいけない。なぜなら彼らは選挙を通して国民から選ばれているからです。首長の方針に公務員が従わないのならば、民主主義は成立しない。民が選んだ人たちに対して逆らうということはいわば全体主義社会です。

政治家はもちろんもっとしっかりしなければいけない。そのためにも国民との約束であるマニフェストを掲げて選挙を行うことが大事です。当選した政党や首長のマニフェストをサボタージュするような公務員には、断固たる措置を取らなければいけない。そのような方向に公務員制度は改正すべきです。

(構成/本誌・千葉茂明)

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