月刊 「ガバナンス」  - 分権オピニオン -

03年8月号 地方分権シンカ論2
職員の内発的改革が進む行政組織に

三重県は北川県政時代の8年間に、2度にわたって組織を大きく変えた。98年には財政課の名称をなくし、政策循環システムが機能する組織に、2002年度には課を全廃し、チーム制を導入している。改革を進めるための行政組織はいかにあるべきか。そして行政組織と職員のモラールの関係を北川氏はどのように考えていたのか――。

総務部中心組織の弊害

8年前に三重県知事に就任したとき、県庁は非常に「内向きな」組織だと感じた。外部から批判されても、自分たちは絶対に正しいという、行政の無謬性を前提に理論構築されていた。県は許認可の権限や、補助金の配分権などを握っており、それらを行使することで県民や事業者を黙らせるというようなことが横行していたと思う。

そうした組織の特徴の一つは上下主従のヒエラルキー型であることです。すると、一般職員は係長の、係長は課長の、課長は部長の顔色を見ながら仕事をすることになりがちです。

もう一つの問題点は、総務部中心の組織になっていたこと。たとえば人事課は、終身雇用・年功序列の中で、これをしてはいけないという管理をものすごくする。それと財政課。各部局は何事も財政部門と相談しないことには前に進まない。知事の議会答弁さえできないわけです。このような総務部優位の組織は情報非公開を前提としており、組織を守るには都合がよく、職員には一見、温かい雰囲気なんです。

私はこのような組織はおかしいと思った。なぜなら主権者である県民には全く関係ないからです。むしろ県民に目を向けないなど弊害のほうが多いのではないかと考え、まずは財政課をなくしたらどうかと提案したのです。

従来、このような内向きの組織は首長にとって力の源泉だったといえる。そして職員は手続き上、無難にやり過ごすのが仕事になってきた。しかし、それでは新しい価値を生み出せない。変えられるのは唯一、県民なんです。日本の地方自治は代議制民主主義を採用しており、議員や首長に託すことでこそ改革が行われなければいけない。私は県民の負託を強く感じていましたから、行政組織の改革を進めてきたのです。

良循環を促すのが知事の役割

三重県では98年4月に、政策を企画・立案する総合企画局と政策評価などを行う総務局、行政サービスを行う6部の2局6部体制にした。当時は、できるだけ執行部門と企画・総務部門を分けようと考え、情報公開を前提に、PLAN-DO-SEEの機能ごとの組織にしたのです。

でも中途半端だった。その最大のものは課の存在です。課があると、課長はパーキンソンの法則で、課の予算と人を増やすことが仕事だと思いがちです。私は逆に、少ない予算と人材で、どのように行政効果を上げていくかに関心があった。しかし一気にはできないので、98年にはその端緒としてグループ制も導入したのです。

グループ制などを行ったことで、職員が自主・自立的に考え、内発的改革を行う意識が芽生え、それが徐々に浸透していった。当初は私のほうから相当提案したが、いつのころからか、職員の間から優れたアイデアが数多く出るようになってきた。私は実は、このように職員が自主・自立的に考え、行動する良循環を起こさせることが知事のリーダーシップだと思っていたのです。今まではむしろ逆で、上の層が職員の自由な発想の芽を全部つぶしてきましたからね。

管理ではなくエンパワーメント

98年の組織改革では、改革を進めるための種をたくさんちりばめた。グループ制一つとっても賛否両論があり、いろいろな議論を行い、そのことが後にフリーアドレスやファシリティマネージメントなどにつながっていった。だから何か一つ行ったから改革ではない。改革の取り組みが互いに共鳴し、ハーモニーを醸し出していく。

そのためには、職員の意識改革が不可欠であり、その最もいい手法は対話です。部局横断型のプロジェクトチームや、気楽にまじめな議論を行う「オフサイトミーティング」などをたくさん設けたことで、意識改革が進んできたと思っている。

若手の職員はもとより、対話によって、特に部課長クラスの意識も変わってきた。当初、幹部クラスは自分の権限が剥奪されるのではないかとかなり抵抗した。そこで私は「権限の剥奪ではなく、むしろ広げることになる。ただし管理ではなくエンパワーメントだ」と話したのです。

エンパワーメントは権限委譲と訳すから誤解が生じる。そうではなく、個々の職員が、内在する能力を最大限に発揮することです。新しい価値を創造するために、組織をフラットにし、内在する能力を最大限発揮できるようにする。このことは裏返せば、自己決定・自己責任です。管理型から経営型のエンパワーメント重視の発想は、従来の県庁文化を変える大きなきっかけになったと思う。

県民に対するロイヤリティを

私は今春知事を退いたが、職員は仕事に対して自信を持ってきたと感じた。それは昨年度から政策推進システムを本格導入したことが背景にある。政策推進システムでは、総合計画「みえのくにづくり宣言」の数値目標に予算や組織、定数、人事評価をリンクさせている。そしてそれらを評価し、回転させるシステムです。内容的にはまだ未成熟だが、これが回転し始めると着実に実行できる。政策推進システムが確立すれば、実はマニフェスト(政策綱領)はいつでも掲げられるのです。

昨年の組織改革では、課を全廃したが、非常に強い抵抗があった。「職員の働く意欲、士気に関わる」と言われ、私も気持ちが揺れた。しかし考えてみれば、これらは内向きの総務部中心の発想なんです。県庁は、主権者である県民の皆様に、一番安くて最大の効果があがる組織が一番いいわけです。

そして、何よりも社会の構造自体が大きく変わったことを認識しなければいけない。少子高齢化が進み、ITが普及し、経済は右肩上がりの時代ではなくなった。そういう社会の中で、行政がこれまでの組織を保持することに汲々となっていたら県民から見放されてしまうだけです。

組織改革によって、職員のモラールは一時、マイナスになることもあるかもしれない。けれどもいままでのモラールは総務部や知事など内部に向けられていた。私は県民に対するロイヤリティを高めろと言ったのです。これが生活者起点です。県民満足なき職員満足はあり得ないということです。

(構成/本誌・千葉茂明)

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